父は旧制の開成中学で柔道部にいて、柔道が出来る人でした。
近衛師団、麻布３連隊と２回応召し、北支那派遣軍で終戦を
迎え、６ヵ月後に日本に帰ってきたと聞きました。
３歳のときに弟が出来る前だか、後だったか忘れましたが、
市営住宅の玄関の板張りの廊下で座った父と対峙させれました。
『おトーちゃんに向かって、思いいきりかかってこい』
『えー、なんでー』
『良いから、ちょっとかかってきてみー』
そこで、遠慮がちに正面から押しました。
『なーんだー、それだけかー、もっと力出せないのかあ』
『えーー。じゃー、えい』
その瞬間、私の身体は宙を舞い、父の太ももに落ちていました。
『えっ』なんでー。
『ほーらなー。ターぼうは弱いんだなー、』
『そんなことないよー。えいっ』
次の瞬間も私の身体は宙を舞っていました。
『やっぱり、ターぼうは弱虫なのかなー』
幼い私の闘争本能に火がつきました。
それから、私の意気が上がるまで何度も何度も、父にかかっていった
記憶があります。
台所から母の声が聞こえてきました。
『おとーちゃ、もう、いいかげんもう、やめといてやー。
ターぼう,息が上がっているやんかー。もーう。』
外野から休戦調停が入りました。
父が言いました。
『そうかー。じゃーもう終わりやでー。ターぼう強くなったなー。
さあ、深呼吸をしよう。ほらこう手をあげてなー』
これが,亡き父の教育でした。
おかげで敢闘精神だけは、誰に言われるまでもなく、心の
そこに焼きついています。
『負けるものかー』
『見敵必戦』敵に後ろを見せぬのが海軍精神です。